本書の執筆は、政府の規制改革・民間開放推進会議が2006年12月25日に発表した答申の中で、協同組織金融機に関する法制度の見直しがあり、これにより協同組織金融の存在意義に危機感を抱いたことが発端と思われる。
しかし、内容は従来の協同組織金融機関のあるべき論(制度の誕生、相互扶助精神、中小企業金融の砦等)が多く、これからの協同組織金融機関は何を強みとしていくのか、銀行との差別化をどう図るのか、そのための具体的施策は何か、といったものがほとんどない。(米コミュニティバンクの事例があるが、あまり説得力がない)
例えば、「信金・信組が協同組織金融機関制度を維持していることは、中小企業を対象とする金融機関としての専門性によるものである(P21)」とあるが、この「専門性」とはどういうものなのか、それは協同組織金融機関にしかないものなのか。
あるいは、「協同組織の船はどう闘うのか(P40)」に対しては、「船は船長(経営者)に委ねられている。船長の仕事は、先を読むこと、そして決断し、実行することだ。(中略)人々が何を求めるかを先読みして動いてこそ経営者である」、「もう一つは協同組織間の連携である」と述べているが、前者は当たり前のことであり、後者は具体的なものが述べられていない。
「協同組織金融機関がなくなったら、中小企業の金融を担う最後の砦がなくなる(P220)」といった論拠だけでは、信金・信組が協同組織形態としての存在することの理由付けにはならない。中小企業向けに幅広い金融サービスを提供するオリックスなどもあり、規制を撤廃したら、新たな魅力をもった事業者が参入してこないとも限らない。
資金需要の旺盛だった高度成長期であれば、弱い立場の中小企業金融の担い手は必要だったが、(同質的なサービスにおいて)オーバーバンキングと言われる現在はどうなのか。
仮に監督当局から「銀行法との垣根を撤廃する」と言われたとき、今の経営者はどのような判断を下すのか。
おそらく、地銀やメガバンクなどの市場に参入する意思決定を下す者は殆どいないと思う。結局、規制取り払っても、戦略の観点からみれば、自分たちの今の市場で戦わざるを得ない。
事実、協同組織金融から銀行へ転換したコミュニティバンクは数えるほどしかなく、協同組織制度の枠組みが廃止されても、中小企業金融担い手が減ることはないと思われる。
また、協同組織金融の法人税率の優遇議論に対しても、「地域へのコミットメントの対価」という経営者がいるが、このような観点からみれば論理性に乏しい。
本書は現場や顧客の声がなく業界等の一方的な見地から述べても説得力に欠けるし、個々のコミュニティバンクが数十年かかって積上げてきた預貸金残高を数年で凌駕してしまうネット銀行などの新興勢力に対しても、「ビジネスモデルが異なる」と言って切り捨てるのではなく、謙虚に向き合う姿勢が必要だと思う。
あるいは、顧客から「おたくと取引することのメリットを他行と比較しながら教えて下さい」と聞かれたとき、納得のいくアピールができるだろうか。「人間力が強みです」という声をよく聞くが、顧客もそれを本当に実感してくれているのだろうか。また、人間力で勝負するのであれば、当然に従業員満足度(ES)の向上が不可欠だが、そうした取り組みに力を入れているコミュニティバンクは聞いた事がない。
そんな中、コミュニティバンクの一つのあり方として、巣鴨信用金庫創合企画部著「ホスピタリティ」は興味深い。