1980年代以降、経済学界のみならず現実の経済政策においても新古典派的な市場原理主義が隆盛を誇ってきた。ところがリーマンショックをきっかけとして世界金融危機が現実化すると、それまでの論調は180度ひっくりかえり、いまや世界中がケインジアンに転向した感がある。
本書は、日本を代表するケインジアンであり、過去10年近く経済財政諮問会議委員としてこの国の経済政策の中枢にかかわってきた著者が、絶妙ともいえるタイトルとタイミングで刊行したもの。
ともに1883年に生まれたケインズとシュンペーター。二人の人生と代表著作をわかりやすく解説しつつ、それらと現代の経済問題を巧みに関連づけて説いてゆく内容はじつにエキサイティングだ。著者自身も非常に楽しんで書いていることがストレートに伝わってくる。
深刻な不況で完全雇用が実現しないときは公共事業を活用したケインズ経済学の出番であること、ただしそれだけでは力不足であり、新たな成長の可能性を見出すにはシュンペーターの唱えたイノベーションが欠かせない──要約すればこれが著者の主張である。
著者の記述には、現実の経済政策に深くコミットしてきた人物ならではの視点があふれており、その点でも説得力が感じられる。財政政策や金融政策を完全否定する「リアルビジネスサイクル理論」等の新古典派マクロ経済学を「妄想」とまで切り捨てている点は圧巻だ。
ケインズはつねに現実の経済と向きあい、国力の下降期にあった母国イギリスの経済を活性化することを考えていた。本書の著者にもそうした部分があり、その点でも真のケインジアンといえるのではないか。
未曾有の経済危機に直面しているいま、「懺悔の書」なるものまで登場して経済学者たちの右顧左眄ぶりが顕著である。いずれにせよ、ポジショントークの得意な学者や、にわかケインジアンの怪しげな言説ではなく、本書のようなしっかりした学問的背景を感じさせる書に触れることが、いまこそ大切なのだと思う。