悲しい本である。ここにはあらゆる悲劇が詰まっている。悪意なき人々が嘆き、
無辜の人々が命を落とし、真実に霞がかけられる。すべては狂った金親子独裁
体制がもたらしたものだ。この体制は関わるすべての者を不幸にする。鬼畜にも
劣る金正日には、法の裁きを受けさせるべきだ。こんな無法がまかり通ってよい
ものだろうか。今さらながら、この外道への湧き上がる憤りを抑えられなかった。
87年に起きた大韓航空機爆破事件の犯人、北朝鮮工作員・金賢姫が、上巻で
事件の全貌を、下巻で自身の半生を赤裸々に語った手記。外交官の娘として生
を受けてからの彼女の人生ほど数奇で壮絶なものはないだろう。幼少期をキュー
バで過ごし、映画に出演して子役スターになり、北朝鮮の子供に課せられる過酷
な労務に耐え、大学で日本語を学んでいる時に工作員にスカウトされる。北朝鮮
の子供が不毛な使役のために、いかに国家にこき使われるかに哀れみを覚える。
金淑姫との二年間の訓練生活を経て、李恩恵との一年八ヶ月に及ぶ共同生活。
そしてマカオ、天津での海外研修を経て、あの任務が命じられるのだ。(下巻に続く)