へとへとに疲れた。冷たい床にころがって、加古 隆のピアノを浴びる。涙がどっと溢れて少しは楽になった。深海魚になってゆく気分だ。このまま海に沈んでもいい。聴き終わる頃には人間でよかった、加古さんのピアノが聴けるのだものと冷静になれる。この魔力のような音を私にはうまく説明できない。解説の浅田 彰氏の文章を読んでほしい。
『ひとつひとつのタッチが、深い深い湖の静まりかえった水面に投げ込まれた石つぶてのように、ゆっくりと波紋を広げていくのだ。あくまでも透明な結晶体でありながら、強いヴァイブレーションを放つ音。それはいったい冷たいのか白熱しているのか。この問いに対しては、次のようなクレーの言葉を引いておけば十分だろう。「私の体から発するものは、熱だろうか、冷気だろうか。白熱を超えた彼岸では、一切の問いは黙す。」』