1950〜60年代、世界の最先端を走っていた名古屋大学坂田昌一研究室。その最後の世代を代表し、ついに2008年ノーベル賞受賞に至った益川敏英氏と小林誠氏の講演録を収めた本書は、講演録ということもあって実にコンパクト。
小林・益川理論は、六元クォーク模型の可能性を世界で初めて示してみせた理論として知られていますが、なぜ六元模型が日本から生まれたのか、その理由を単に複合模型を主導した坂田研究室の自然観に帰してしまうだけでは問題があるということが本書を読んでわかりました。
というのは、クォークを信じるということは、同時に、場の量子論を信じるということでもあり、当時は、坂田昌一も含めて世界の物理学界全体が、場の量子論の有効性を疑っていたからです。場の量子論のスキームを信じて研究を進めていたのは世界でもごく少数の研究者だったようです。
ところが、興味深いことに、世界の趨勢と同じく場の量子論に批判的だったはずの名古屋大学では、大学院教育カリキュラムの中では場の量子論がしっかりと教えられていたというのです。この状況を「周回遅れでトップを走っていた」と益川氏がうまい言い方で表現していますが、日本の大学・大学院教育の硬直性がむしろ幸いしたということでしょうか。