人気翻訳家の柴田元幸氏が雑誌「エスクァイア 日本版」に連載された海外短編を中心に英米の有名大御所作家と知られざる無名作家の作品17編を集めた秀作アンソロジーです。柴田氏は本書の短編は初めから意図せず眺めてみると結果的に「いずれは死ぬ身」というテーマに相応しい内容の作品集になったと述べられており、全体的には死がイメージする暗く重い雰囲気ではなく、「どうせ人間何時かは死ぬんだ」という考えの開き直った緩く軽い明るさが感じられ、こうでなければと教訓を引き出すような物語はひとつも無いと言ってよいでしょう。小説だけでなく見開き2頁のみのマンガも2つ入っていて間の息抜きにも丁度良いです。
『ペーパー・ランタン』スチュアート・ダイベック:中国料理店からの帰りに職場の火事を見た僕は、昔彼女とドライブ旅行した時のスリリングな記憶を呼び覚まされる。R・マシスンの名作短編「激突!」を思い出させる映像的で鮮烈な一編です。『スリ』トム・ジョーンズ:糖尿病で足を失い義足をつけた60代の俺はある日部屋で見つけたクモに惹かれ餌をやる内に不思議と運気が上向いて行く。苦しくても「へっへっへっ」と笑って生きる男に励まされ自然に勇気が湧いて来ます。『いずれは死ぬ身』トバイアス・ウルフ:虚偽の死亡記事を出した為に新聞社を首になった僕に、生きていて訴え出た当人の男が同情するのですが・・・・。意外な真相と奇妙な人間心理に頭を捻らされる一編です。『自転車スワッピング』アルフ・マクロフラン:16歳の時に2台の自転車で坂道を走行中に互いが乗ったまま入れ替わるという高度な技に挑戦して失敗し頭を強打して記憶を失った僕と病室で死を直前にした友パディとの奇妙にも研ぎ澄まされた会話を描きます。
他にもP・オースターの実験的戯曲やカフカの「変身」とコミックの合体パロディマンガ等個性的でヴァラエティー豊かな秀作短編集を軽いノリでお楽しみください。