100近くある日本の公営競技場を訪問してギャンブルをする「旅打ち」の魅力を縦横に語る。粗製濫造、中身の薄い新書がまかり通る中、著者は国内の全公営競技場を踏破して本書を取材している。そして、新書という限られたスペースの中で、単なる競技場訪問記にとどまらず、戦前からの歴史、先行作品研究、公営競技場の持つノスタルジーなどの観光性なども盛り込み、深みのある本に仕上げた。
「廃場訪問」「競技場グルメ」など旅打ちスタイルの分析や、荒尾やばんえい、小松島など、地方色がよく出ている競技場の訪問記は写真が豊富で、文章と共に濃厚な「昭和っぽさ」が伝わり楽しく読める。また、「泡」「米」なんて隠語を使って禁制品の販売をしていた、など各章末のコラムも読みでがある。観光地を巡る普通の旅は、当地のよそ行きの姿を見るだけだが、ギャンブルは本当の地元を楽しみながら見られる希少な場だというのがよく分かる。
非常に中身の詰まった本で、途中で休まず一気に読み切った。どちらかというと紀行文好き寄りだが、ギャンブル好きの人もデータ本としてそれなりに楽しめると思う。個人的に公営ギャンブルはギャンブル以上に、文化や行政としての興味でしか見ないので、競馬予想家としての著者の力量は分からないが、競馬ライターとしての著者の目は、今まで考えていた以上に冴えていると感じると共に、とかくJRAやホースマンに迎合するか、逆に斜に構えるという書き手が多い中、掛け値なしにギャンブル文化を愛していることが、本書を読んでよく分かる。公営ギャンブルは次々と廃止傾向にあるが、本書でノスタルジーという魅力を再発見してもらい、少しでも売上回復に…と底辺から公営ギャンブルを盛り上げたいという著者の考えに好感も持った。新書ではなく、出来ればもっと厚い本で読みたかったが、採算度外視の労作であること、本書執筆の理念に共感して☆5。