この本ほど、現代の知識虚構やそれに感染した人々をぶった切った随筆録はないだろう。
柔らかい散文でもなく、ごつごつした無意味で難解な専門用語もなく、情熱と命の本質で持って眺め、あるいは感じたものを素直に、鋭くひねり出している。
著者は詩人であったらしく、時折詩的叙情的嘆息を漏らしたり、現代の学門的衒学な知識共同体に対する鋭い罵倒、ニーチェのシュトラウスへの攻撃を思わせるような、それでいで笑いを催させる鋭い文化批評、人間心理の本質の彫刻、著者自身の宇宙の告白・・・
あらゆる意味で、情熱の枯渇した現代病理社会を探り当てた名著である。
著者の漢字が多少耳慣れないものもあるが、漢字の美しさへこだわりもあるようなきがしてならない。
現代の枯渇した活字の多い昨今に、これほど輝きもあり、血の臭いのする書物ももはや皆無となった今、ぜひとも日本の歴史にとどめて置くべき最高の一書である。
そして、この著者が未だ現存する日本人であることが、信じられない奇跡だ。
情熱の臭いを嗅ぎたい者、命の音を聞きたい者には、この本がぜひお勧めだろう。