我々が感じる心理的恐怖の概念とは何か。不安、緊張、重圧、強迫観念、錯乱、動揺、そんな気分が不意にしろ徐々にしろ襲ってくる感覚を言うならば、絶対的弱みを握られる事で、好意を持たれた相手から精神的に知らず知らずの内に従属され、生涯逃げられない関係になるくらい“恐怖”な事はないのではないか。今作はまさしく年差の離れた夫とふたりの子供を持つまだ若く魅力的な女教師が、教え子との禁断な恋におちてしまった事を目撃された事から、密かに彼女に“好意”を感じている定年間近の同僚教師に囚われていく大層怖いサスペンスだ。ジュディ・デンチとケイト・ブランシェットというハリウッドを代表する名女優たちの静かな中にも火花を散らす演技合戦が見もの。理知的なクール・ビューティのイメージが強いブランシェットが性的欲求を抑えきれない情緒的で官能的な役柄を演じきれば、自尊心と毅然とした潔癖さの下に孤独とねじまがった愛情が潜むオールド・ミス役のデンチが貫禄十分に応える。ふたりの主人公の“行為”は反公序良俗なのだけれど、演じる彼女たちの名演ぶりを以って、危ないながらもある種の悲しみを湛えた作品となっている。C・イーストウッドの「恐怖のメロディ」をちょっと想起させる今作、愛情と憎悪は表裏一体である事を実感させられる1本だ。