本書の良い点を挙げると、まず価値中立的であること。とりあげた演説者は小泉純一郎、田中角栄、バラク・オバマ、ジョージ・W・ブッシュ、ジョン・F・ケネディ、フランクリン・ルーズベルト、キング牧師の7名。必ずしも後世の歴史的評価が高い人ばかりではない。中には今となっては支持したくない人もいるだろう。それでも本書で採り上げた彼らの演説がなぜ人々(田中角栄だけは演説の向けられた人々の範囲は新潟選挙区民と狭い)の心の琴線に触れ、行動にかりたてたのかを、「ストーリーの黄金律」、ストーリーにおける「三本の矢の法則」という切り口で分析する。要は演説に限らず、映画やドラマでも、ストーリーを語るという形式が人間の記憶に残りやすく、心を動かすものであり、人類共通の感動のツボをおさえるのが肝要だということに尽きるのだが、「黄金律」「三本の矢」とは具体的に何かは各自読んで下さい。非常にシンプルなことなのだが、それだけに私も仕事等で使えそうだ。
次に、実際の名演説を読む楽しさ。どの演説もせいぜい断片しか知らなかったが、全文を熟読することができるのは有難い。
また、各演説・演説者の背景を素描しているので、ちょっとした現代史の勉強になる。
以上が、私がこの本を面白いと思った理由だ。なお、バラク・オバマの章では彼のもう一つの名演説である大統領選挙勝利演説の全文、JFKの章では彼が徹底的に分析したであろうリンカーン大統領のゲティスバーグでの演説全文も収録していることを付言しておく。