「あの日にドライブ」という題名がまず好きです。リストラによってやむなくタクシーの運転手をすることになった主人公がある時、昔付き合っていた彼女の姿を見かけたことで、過去に取り付かれます。「もしあの時彼女との道を選んでいたら・・・」「もしあの時ああしていれば・・・」あるはずもないことに夢を膨らませ、現実を置き去りにする。しかし、現実は会社を首になり、タクシー運転手としてのノルマも達成できず、家族とも上手く付き合えていない冴えない男。自分を過大評価し、周りを見下し、愚痴ばっかりの主人公も、ある時ふと気づく。自分の周りにいる人の人生に。同じタクシー運転手をしている男は昔、競輪の選手だった。どこかの会社の社長をしていた人もいる。自分ばかりが上手くいかない人生に手こずっているのではなく、周りもみんなそうだったということに気づいた時、男は「他人の人生なめちゃいけないな。」と思う。あるはずもない空想に夢を見続けるよりも、今ある生活を生きていくことに前向きになった男の心の動きがごく自然に描かれていて、共感する部分が多かった。ナチュラルに気負わず読ませてくれるさりげなさは「明日の記憶」と同様。プラスαとして、とても身近にいるタクシー運転手という職業が扱われていたことで、より現実味が増して、よかった。
街に溢れているタクシー運転手を見る目が少し優しくなったような気がする。