著者は日本の戦後を「戦争を忘れようとしてきた時代」だと言う。
そして今や「忘れようとしてきたことすら忘れているのではないか」とも書く。
著者は残留孤児の子供として生まれ、「久枝ちゃんのお父さんは中国人なの」と言われた。
そのため、無意識のうちに「中国」を遠ざけてきた。
しかし成長するに従って、父が27歳まで過ごした「中国」と
「あの戦争」について、もっと知りたいと渇望するようになる。
約10年をかけての聞き取りを経て出来上がった渾身の一冊である。
ノンフィクションというと、対象から一歩離れて冷静に描写するものが多い。
しかし本書で著者が取り上げている対象は、父と自分である。
父の歴史と自分史が交錯する作品は、思い入れの強さからか危ういほどの熱さを帯び、
小説も及ばないような訴求力を持った。
著者自身の揺れる心境がそのまま吐露されており、
また父の中国時代の生活も、非常によく取材されて書かれている。
「あの戦争」がもたらした数々の悲劇を少しでも多くの人に知って欲しい、
そういう熱い思いの伝わってくる力作である。