BL本の数ある効能の中でも、「泣ける」はけっこう上位項目ではないかと思うことがあります。
泣くには、主人公の心情に同調できるかどうかがカギになります。
本作で亮(あきら)のトラウマや不器用で人に甘えられない性格に思いきり同調して涙が出たのは、ひとえに作者の力量でしょう。
母子といえども相性の合う、合わないはあるわけで、亮は幼少期より母に違和感を抱いて成長しました。
そして中学生の時に起きたある事件を機に、母と決別。(このあたりの描写が秀逸で、思わず悲しみに満ちた子どもの視点で読んでしまいました)
唯一の理解者だった祖母の元に身を寄せるも、高校生の時その祖母も亡くなってしまう。それ以降バイトに明け暮れる孤独な苦学生として生きてきました。
早見と早見の祖母が住む家には、自分と祖母が住んでいた家と同じ温もりがある。本当は入り浸りたいのに、遠慮する亮が切ないのです。
亮視点でストーリーが展開するので、早見の気持ちがあまり説明されません。
しかし説明不足ではなくて、早見の思いを想像させる書き方と言うべきでしょう。
情緒的な心理描写を何行も続けるのではなく、的確で簡潔な表現をするところは希少なBL作家だと思いました。
肝心のラブの方は、臆病な子どもが手取り足取り大人に教えてもらうという王道設定です。
ページを本文で使いきっていて、後書きはありません。最後の最後まで中身たっぷり。
しっぽまであんこがつまった甘ーいタイ焼きのような一冊です。(涙のしょっぱさが隠し味)