登録情報
|
登場人物たちはそれらの存在に対して、何か意味を感じ取ろうとして懸命になり、勝手に誤解して喜んだり悲しんだりするのだが、相手はそんなことはおかまいなしに裏切り続ける。特に、「バビロンの塔」や「地獄とは神の不在なり」の結末の、脱力っぷりはどうよ。最高だね。
レムよりも「わかりやすく理解不能な存在を描く」(!)チャンはすごい。
テッド・チャンがその両方を兼ね備えた作家であることは確かだ。山岸真氏の「解説」によると、2世の中国系アメリカ人で中国語はもう話せないらしいが、どうも漢字文化へのこだわりがあるように思われた。漢字を象形文字としてではなく、一瞬にして複雑な意味を伝えてしまう一種の図像、「ゲシュタルト」として見なしているのではないかと思う。表題作に出てくるエイリアンは、たった一つの文字で未来の出来事まで全て表してしまう特殊な意識と文化を持っているし、「理解」の設定は薬物実験によって人間の意識が拡大し、世界が「ゲシュタルト」として一瞬で捉えられるようになる話だ。
現存の人類とは異質な世界観の提示はSFの得意とするところだが、チャンの場合は、「世界」全体を意味ある図形、或いは図像として意識するというところから出発しているようだ。それが人間の容貌に対して適応されると「顔の美醜について」のようにかなり日常的なテーマとなり、宗教的世界像に対して適用されると「バビロンの塔」のように別世界の宇宙像になる。そのヴァリエーションを楽しむだけでもこの短編集は十分堪能できる。
表題作ではファーストコンタクトによる世界観の変容が主人公の人生に思わぬ悲哀をもたらすことになるのだが、その意識の変遷を語りのスタイルに巧みに反映させている辺り、傑作というにふさわしい出来である。
|
この商品のクチコミ一覧
クチコミを検索
|
関連するクチコミ一覧
|
|
|
|