著者は、異常心理学と銘打った本が、実際は、精神医学の症状を羅列しただけの精神症状学になっていて、本当の異常心理を扱っていないと言います。それは、異常心理と精神障害を同一視する考え方があるためです。しかし、異常心理は精神障害に限ったものではなく、だれの心にでもひそんでいるもので、本来の異常心理について、著者の豊富な知識と経験から語ったのが本書です。
異常心理の特徴は、健康な顔ときわめて異常な顔が、一つの連続体としてつながっていることです。著者は、身近にある心理から、きわめて異常な心理に至るプロセスを描き出します。なんといっても、本書のだいご味は、次々と出てくる事例や人物のエピソードの面白さでしょう。ユングが不登校だったとか、三島由紀夫が女の子としか遊ばせてもらえなかったとか、売春を繰り返したOLとか、体を売ってホストに貢いだ少女とか、いろいろ出てきますが、読んでいくうちに謎が解けていくところが快感です。精神科医でもあり横溝賞作家でもある著者の筆力にぐいぐい引き込まれてしまいます。事実は小説よりも奇なりと言いますが、生半可なミステリーより本当のミステリーといったところでしょうか。人間の心の不思議さというか、憐れさというか、奥深い真実を垣間見た気がします。