「あなたが泣くことはない」詞:松井五郎・ASKA、曲:ASKA
木村祐一監督「ニセ札」主題歌。短いことばで、決断を経た男女の想いが複雑に交差する行間は、当に映画のワンシーンのよう。ポップスを越えた先で表現する“うた”としてしびれさせる名曲ですよ。背中の向こうに佇む感情の抽象度が凄く魅力的。年輪を刻んだ男の色温度は単純ではなく、それをモザイクのようなことばたちで松井五郎とASKAは綴ってゆきます。でもそこには甘いことばだけを散りばめたラブソングよりよっぽど有機的で説得力があるんですね。だから名曲でした。
冒頭は「この愛のために」等のようなつぶやきの出だし。同じ単音にことばを乗せてゆき、淡々と海の底を浮遊するようなメロディー。この大人な出だしも非常にかっこいいです。旋律の分かりにくさが逆に癖になり、陶酔の快感にさえ引き上げられます。これが40〜50代のASKAのポップスの魅力だと最近は感じているのですが皆さんはいかがでしょう。酸いも甘いも経てきた大人だけが苦味を旨く感じるような効用が、この曲の素晴らしさかなと思います。ビターチョコレートのように、苦い厚みの奥からほのかな甘味に出会うような大人の味わいです。
因みに展開は音が徐々に動きだし、バンドサウンドで劇的に転調するサビがきます。これもじわりと感動的ですよ。
「L&R」詞・曲:ASKA
CHAGEandASKA無期限活動休止の真相を感覚的なことばたちの中に漂わせた曲。CHAGEandASKAはどこから来たのか、CHAGEとASKAとは一体何なのか、CHAGEandASKAはどこへ行くのかその核心をASKAらしく抽象的なピースで一つ一つ描き、射抜いています。しかしそのテイストは非常に爽やかで、意思が貫いた真ん中を風が吹きぬけてゆくような決然さに出会いました。
そして非常に深いサビ。他のどの曲よりも内側に意思のこもった一言が聞けた気がします。ゆえに凄くかっこいいんです。例えばその一つ「ここから先は」。50歳を越えたアーティストたちは今誰もが新しい地平を見つめた活動や作品を記していますが、ASKAという表現者もまた同様で、その象徴のようなサビフレーズでした。一つのことばに重みを覚えますし、今まさにASKAはアーティストとして傑作を産み落とさんとする雰囲気を感じさせますね。
最後に、LOVE&PEACEとROCK&ROLLを合わせたような造語が出てきますが、たまたまこの字体にするとLLの字体が二人並んだように見えてしまいました。他方「月」とはASKAがかつてCHAGEを表したことばでもあったと、記憶しているのですが。弓張月・・「C」ですよね。