この著者の本は手に入る限り読んでしまっています。私はガッコウで哲学をたくさん勉強したわけではないのですが,この著者の哲学はホンモノだという気がするのです。なんの権威も笠に着ないその姿勢は,「文筆家」という,言葉にするとなんとも頼りない著者のその社会的立場から,専門用語を締め出して妙に生温かいその文章まで一貫しているようです。これこそ,「オレはただ気になるからひたすら考えるのだ」という哲学の根本を身を以って表してくれていることに他ならないのではないでしょうか。
テーマはよくあるヤツです。「幸福」「癒し」「孤独」「老い」。しかし,こうしたテーマに関して巷に出まわるお手軽なコメントを,本書はその足元から揺さぶってなにもすがるもののない奈落の底へと突然落とします。突き落とされた底には実は既に著者が先に落ちていて,突き落とされたこの地点をはっきりと踏まえない限りいつまでたってもホントウのことを捕まえることなんかできないのだと,ニッコリ笑って自分だけサッと飛んで行ってしまいます。
奈落の底でおいてけぼりを食ったその中でも,「哲学と笑い」が愉快でした。まるで,学問としての「哲学」をまるごと笑い飛ばしてくれるかのようにも思えて,とっても痛快。「誰もそんなこと言わないけど,私には分かる。ヘーゲルは著書の中でゲラゲラと大笑いしているのだ」などと言われると,「そうなのか。しまった,自分にはヘーゲルの笑い声が聞こえなかった。よし,もう一度読んでみよう」などという気にさせられてしまいます。自分もヘーゲルの笑い声を!聞いて奈落の底から飛び出して行きたい。