「川の底からこんにちは」の衝撃(笑劇?)が記憶に新しいところですが、石井裕也監督期待の新作は、ヘンに作家性を振りかざさず、それでいてエンタメの才能、個の色を失うことなく、いい感じにシニカルで、それがいい意味での若さや新鮮さをも感じさせるような作品となっていました。
インタビュー記事などを読むと、石井監督は、こんなおじさんに憧れているんだという。一見して不器用、意地っ張り、見栄っ張り、なぜそんなおじさんになりたいのかとふと思うが、彼の言葉は明瞭だった。それが『いい男』だから...。
いつの頃からでしょうかね、いわゆるトモダチ先生というのが出現したのは。生徒と友達のように関係を持つ。威厳ではなく、親近感。道を示すのではなく、隣りで一緒に考える。それもステキな先生なのだろうけれど、素敵な大人ではない、ということなんだと、監督の「いい男だから」という言葉を聞いて、ふと腑に落ちたような気がしました。
“ダンディ”という名の衣を着た中年男に意地と見栄を貫き通させるストーリーは、優しさと笑いに溢れ、時にファンタジーも交えながら巧みに展開し、切なくも魅力的な映画に仕上がっていました。
帽子へのこだわり、愛猫と一緒に撮る写真、自分を競走馬に見立てて自転車で走り抜けるあぜ道。すべてがとぼけた可笑し味があるのだが、地方都市で懸命に生きてきた主人公が言う「地位も金もいらないから、せめてダンディでいたい」「平凡であることを恥じたら終りだ。それはつまり生きていることを恥じるなということなんだ」などのセリフは、シリアスぶらないのに重みがあり、希望を持って生きようという確かなメッセージが感じられる。
宮田という男は、昭和のオヤジの価値観をガンとして信じてる、それでしか自分の生きる道はない、みたいな感じ。(笑) 奥さんを亡くして以来、男手ひとつで子供二人を育てている。その亡くした奥さん(西田尚美)が写真と回想と夢想にだけ出てくるんだけど、その天真爛漫な感じがいかにこの家庭の潤滑油になっていたかを思わせる。
そして、光石研演じる宮田と、彼と漫才コンビのように一緒にいる田口トモロヲ演じる真田がなんとも可愛く可笑しく、ふたりのコンビネーションが絶妙!中学生時代、カツアゲされる場面があまりにしっくり来過ぎている(爆)いじめられっこ同士だった二人が自転車で疾走したのが“あぜ道”であり、そんなイケてない中学生だった彼らの憧れが“ダンディ”なんだよね。
役者陣は皆好演。一生懸命な中年男の美意識をこんなにもカッコよく見せる映画はなかなかない。世の中のお父さん(オジサン)を励ましてくれる映画でした。