大阪地検特捜部の証拠ねつ造事件として有名になった、
郵便不正利用事件(「凜の会」汚職)の冤罪被害者である、
元・厚生労働省児童家庭局長の村木厚子さんの手記。
仕事やプライベートに関する半生記と、
郵便不正利用事件の冤罪事件に関する手記が、
ちょうど二章ずつ半々に描かれている本である。
村木さんの人柄がにじむ内容と文体で、
いわゆる「ふつう」のキャリア・ウーマンの半生記と、
そこに突如ふりかかった汚職事件の冤罪がドラマティックに対比されている。
しかし、村木さんの手記自体はとても淡々としたもので、
家族に対する深い思い入れはあるものの、
検察に対する深い怨みや、官僚機構に対する不審のようなものは、ほとんどない。
村木さんは、「ふつう」の人に見えるところが多いが、
努力家で才気あふれる人でもあり、
だからこそ女性ながら局長職にもなったわけで、
必ずしも「ふつうの女性」のロール・モデルではない。
とくに、公務員、なかんずく霞ヶ関の官僚であったことは、
さまざまな面で一般化できない「特別な待遇」であることを、
考慮しておかなければまちがう。
それを勘案しても、常識あふれる村木さんの手記は、
霞ヶ関の官僚のなかにも「ふつう」の感覚がある家庭人がいること、
ごくごく当たり前の生活感覚がある人がいるのだと安心させられる。
とくにそれを意識させるのは、巻末に付録された「勾留生活164日間を支えた149冊 全リスト」だ。
差し入れで提供される本を読んでいることもあるのだろうが、
推理小説や一般書籍が多く、仕事関係の専門書がほとんどない。
たまに、洋書があるのが、ニューヨーク赴任の経験のあるインテリらしいところで、
あとは佐々木譲、今野敏、塩野七生、司馬遼太郎などよく見る作家がずらりと並んでいる。
そうしたところが、霞ヶ関の官僚としてのキャリアとは違う、
素の村木厚子さんの側面であり、
仕事をのぞけば読書好きのいち家庭人であることを感じさせる。
もともと文章を書くことが得意な人のようで、
官僚や政治家にありがちな、くだくだしい文体ではなく、
内容がすっきりと整理された飾りのない文章ながら、
端々に「私はこう思う」という意思が明確に書かれています。
人を出し抜いたり、陥れたり、たえず知略で駆け引きをしているという、
官僚に対するあまりにも偏見じみた考えがあった自分に気づかされた。
「ふつう」の感覚をもった官僚というのもいるのだという、新鮮な驚きがあった。
ただ、村木さんは官僚や公務員の「特別待遇」に鈍感なところは、
さすがにどうかと思ってしまった。(旦那さんは天下りの再就職をしているとか)
唯一のマイナス点はそれくらいで、キャリアOLの人にはすごく参考になる本だと思う。
とくに、気分転換やスイッチの切り替え方などが、本当にさすがである。