点頭てんかんという重い病と知的なハンディを抱えている娘が2歳半の時でした。通所訓練施設に通い始めた娘を家に連れて帰る途中、市民会館の前を通りかかった時、突然、娘が「あかんべ」という仕草をして笑い始めました。娘は、抗てんかん薬を服用しているため、反応も表情も乏しい子でした。 驚いて立ち止まると、そこには、こども劇場の看板があり、白い子猫の絵が描かれていました。娘はその猫に向かって、何度も「あかんべ」をして笑っています。子育てに不安でいっぱいの時でした。娘が自分から「あかんべ」をする姿を見て驚き、とにかくうれしかったことを思い出します。
その猫が絵本の「あかんべノンタン」の主人公であることを翌日通所訓練施設の先生から聞かされました。出会った動物たちにノンタンが「あかんべ」をすると、その動物たちが皆驚いて、ひっくり返るという単純なストーリーですが、娘の喜ぶ姿が見たいあまりに、ノンタンの絵本をシリーズで買い揃え、娘に読み聞かせる日々が続きました。ノンタンに始まった絵本の読み聞かせは、その後、数え切れないほどの絵本に広がり、娘が19歳、息子が14歳になるまで続きました。
大人になってから絵本と出会った私は、何回も読み聞かせたはずの絵本のストーリーすら思い出せない有様ですが、20数年前、歩みののろい娘を引きずるように歩いていた私を明るい気持ちにしてくれたノンタンが、ふとした時に思い出されます。読み聞かせの日々をなつかしむように絵本を読み直している現在、まず一番に思い出されるのが『あかんべノンタン』です。心のどこかにしまわれて、忘れることができるからこそ絵本は心を元気にしてくれるのかもしれません。