料理屋のひとり娘「おりん」とその料理屋に憑く亡者たちとの交流を通して、人の命の儚さや業の深さを描いた時代小説。
上下巻におよぶ長編小説ながら、読みやすい文章とミステリアスな展開とによって、最後まで飽きることなく楽しめる作品だった。
一軒の料理屋とその周辺という限られた範囲内で繰り広げられる話ながら、欲に取り込まれる弱さや逆境にも打ち勝つ強さといった、人の二面性を示して見せるなど、著者が作品に託したテーマは大きい。
素直で健気な主人公おりんのほか、亡者ではあるが、磊落な気質の「玄之介」、気の優しい「おみつ」、気難しい「笑い坊」など、作中人物の造形は多彩に描き分けられており、それぞれが魅力的な個性を持っている。
古風な言い回しや風俗には、作品の流れを壊さない程度のさりげなさで注釈が入れられており、時代小説にそれほど親しくない人でも、作品世界にすんなりと入っていけるよう配慮もされている。