心に疵を抱えた主人公の“あたし”と、カザマ君の距離感がおもしろいと思いました。頑なだった“あたし”が、恋をして、ゆっくりと自分を見つめ直していくストーリー。面倒なことからは、とっとと逃げる“あたし”が、逃げるわけに行かなくなった一大事が起こります。大切なもの。“あたし”は一気に、目覚め、ふらふらし、拡散していた気持ちが一点に集約されていく・・・そして、生きる希望さえ見いだすことになります。なかなかテンポよく、大阪弁も心地よく読んだのですが、なにか、書き急いでいるような感じをうけます。過去のトラウマとの訣別も、妊娠による自己覚醒も、いきなりそこへ持っていったというような、荒い感じ。でも、“あたし”が逃げずに生きていく決意は、きっぱりと、爽やかで、「決意」というものは往々にしてそうやって突然のものであろう、と納得させられました。
「サムのこと」も、覚醒と再生の物語です。私はどちらかといえば、この作品の方が若々しさが全面に出ていて、引きこまれました。
西加奈子さん、次作を待っています。