「やってくれた、古川兵曹!」前田中尉が思わずつぶやいた。瞬間、喜びとも悲しみともつかない複雑な感情がこみあげてくる。...
本書は回転特攻隊として三度出撃された横田氏による回想であると同時に、第二次世界大戦末期の日本において祖国を想う若者が何を考え、どのように行動したかを等身大で伝えてくれる貴重な記録です。瀬戸内海の回転基地、大津島における訓練はそれが死を前提としたものを忘れるかのように、搭乗員として選ばれた者の熱意と技術的課題を乗り越える姿を伝えてくれます。しかしそれが単なる訓練ではないことは出撃命令が下された瞬間に明確となります。この命令は搭乗員にとってとりもなおさず死を意味しているからです。
かくも人間性にあふれ、祖国愛と使命感に包まれた若者が潜水艦から切り離され、一人、海原に向かっていき、そして、爆音とともに消えていく、本書の後半ではそういった現実が何の気負いもなく繰り返されます。特に最後のイ36潜の苦悩に満ちた戦いは圧巻です。これが単なる物語や映画の世界であれば、どんなによかったことでしょう。しかし、今から50数年前、このようにして現実に多くの若者が散っていったのです。本書は搭乗員としての横田氏の記録であり、淡々としたその記述ぶりには元海軍軍人の規律と誇りさえ感じます。しかしそれだけに無言の感銘を読者に与えてくれているのではないでしょうか。
現在、回転は靖国神社の遊就館に保存されています。一見、単なる魚雷のようにも見えるその黒塗りの姿が一つ一つの尊い命であり、彼らが守ろうとした家族と祖国を象徴しています。その一つ一つの魂を想うと涙を禁じえないとともに、涙を乗り越え、彼らが求めた日本と本当の意味での平和を築きあげる使命が我々に課されていると思わずにはいられません。 合掌。