主人公の韮崎紘(佐藤浩市)は30代半ばの大手証券会社のやり手営業マン。広い庭のある妻の実家で、美しい妻、息子、妻の母親と暮らしているが、会社の将来は怪しくなってきている。そんなある日、自宅近くで見知らぬ胡散臭い初老の男に呼び止められる。男は、おれはおまえが幼いときに生き別れた父親だと言い張る。紘は、実母から、父親は幼いときに死んだと聞かされていたのだ・・・。
だれにとっても年老いた親の世話は避けて通れないモノ。兄弟間のトラブルにだってなります。おまけに身内のトラブルは情や義理、世間体もあって、金銭もからめば泥仕合になりがち、30歳代〜40歳代は人生で一番充実している時期だけに、やっかいごとは避けて通りたいもの。佐藤浩市さん演じる主人公は次男で妻の家に暮らしているので、妻のことも考えなければならないし、兄貴(三浦友和)は他人事のように非協力的。仕事の上でも会社が危ない。その大変さがよくわかります。迷惑がりながらも他人の顔はできないんです。やがて紘の誠実な態度に周囲の人々も次第に変化してゆくのだが・・・・。
山崎努さん演じるうさんくさい親父と、喘息もちで体が弱く、やや情緒不安定で世間知らずな妻役の斉藤由貴さんは、結婚してから子供が生まれるまでの微妙な年齢ということもあり、いずれもよい味を出しています。
本作品はホームドラマのような地味な扱いながらも、藤村志保さん、富司純子さんなど豪華な脇役俳優をずらりと揃えた、故・相米慎二監督の(若すぎる)最晩年の作品で、最後から2番目の作品にあたります。
本作品には、かつての相米節的な「長回し」や「度肝を抜くような演出手法」は無く、ごく平凡なホームドラマといった印象を受けます。
その代わりに相米慎二の生い立ちを投影したような「親子の絆」や、自身の運命を暗示させるような「輪廻転生的な死生観」を感じさせられる作品に変化している。そして終盤が近づくにつれ、いつの間にか作品が格調高い文芸作品へと変化していることに気づかされる。
大手証券の破綻など、この当時の金融危機勃発時の世相を感じさせる作品でもある。
佐藤浩市さんも斉藤由貴さんも、気心の知れたかっての相米組の卒業生。二人の練度の高さもあって、家族の一員の目線を借りているような魔法のテクニックを感じることができます。しかしながら演じる俳優さん達は今回もかなり大変だったようだ。特に斉藤由貴さんが薬を飲む冒頭のシーンは、撮影用のカルシウムの錠剤ながら2錠づつ10テイクもやらされたとか・・。
なお、本作品は比較的近年の作品ながら、「諸般の事情」があるのか各種の映画賞を受賞しているにも関わらず、DVD化されておらず入手困難が惜しまれる。