本書は産経新聞等にチャイナに対し、常に厳しい視線を投げかける石平氏が書いたチャイナ経済行き詰まり論である。なぜチャイナの経済が行き詰るのか。それは、ひとつには政府が進める強引な経済成長優先主義の結果もたらされた膨大な、あまりにも膨大な通貨の膨張の結果、不動産がバブル化し、終息の見通しの無い悪性インフレに経済が陥り、富が一部の権力者に集中する一方、大多数の庶民には年金も社会保険もなく、格差が天文学的レベルにまで拡大しているというものだ。1978年を基準にするとチャイナのGDPは92倍になったが、広義のマネーサプライは705倍に膨らんでいるという。これでインフレが起きないわけがない、不動産バブルが起きない訳がないというのが石平氏の見立てだ。
チャイナ経済の大きな特色は、チャイナという国は税金を集められない国で、本来、儲からないからこそ国が税金を投入して実施すべきインフラ整備の多くが「儲かります」という間違った前提の下、収益事業として国営企業や第三セクターによって実施されているという点だ。本来、インフラと言うものは儲からないし、基本的にタダで国民に使用させる類のものだ。だから日本ではガソリン等に高い税金を課し、道路特定財源として年間5兆4千億円を集めて、市道・国道のような一般道路の整備を行っている。これとは別に、国際的に見てもかなり高い高速道路料金を設定し、年間2兆6千億円を集めて高速道路を整備している。それでも高速道路の大半は赤字で(黒字は東名名神、中央)それが故に道路公団の借金は40兆円まで膨らんだ。日本国有鉄道の借金は民営化の直前、24兆円まで膨らんだ。日本の新幹線は昭和39年当時、世界銀行からの融資を得て実現に漕ぎ着けたものだ。こうしたモノを、チャイナは恐ろしいほど短期間に、全部、政府系金融機関からの借金で行っている。なぜチャイナは税金を国民から取らずに借金でインフラ整備を進めるのか。それはチャイナをはじめとする旧共産主義国では国民から税金を取らないのではなく取れないからなのだ。共産主義と言うのは福祉もインフラも全部政府がタダで作ってくれるもので、税金はゼロの無税国家だった。だから国民に納税意識のかけらも無く、今になって税金を取ろうにも取れない社会的風土が出来上がっている。ここが旧共産主義国の国家運営を著しく難しいものにしている。しかし儲からないものは儲からない。そもそもチャイニーズは日本人ほど豊かではない。1人当たり国民所得は日本の10分の1程度にすぎない。にもかかわらずチャイナが整備した高速道路網は2010年9月時点で65000キロ(日本は7642キロ)、高速鉄道網は6920キロ(日本の新幹線は2176キロ)。これが如何に無謀な数字であるかは、もうみただけで分かろうというものだが、このチャイナの急ぎ過ぎが先のチャイナの鉄道事故でグロテスクな形で世界中に知れ渡ってしまった。既にチャイナの鉄道省が抱える借金は24兆円を超えているという。これはもう破綻するしかない。
チャイナの経済は基本的に内需では無く輸出で成り立っている。しかもその過半は外資による組み立て工程の、いわば下請けだ。チャイナは世界の工場では無い。世界の下請け工場と呼ぶべき存在だ。100円ショップに製品を供給している東莞市周辺に軒を連ねる中小企業は労賃が伸び悩む中で塗炭の苦しみの中にあるという。なぜならチャイナの唯一のウリは「価格が安いこと」しかないので、人民元があがっても、労賃を下げてでも安い価格を維持していかないと、仕事がミャンマーやベトナム、バングラデッシュに移ってしまうからなのだ。こうして昼夜兼行のチャカポコ労働をチャイニーズは継続せざるを得ないのだ。
チャイナが貯め込んだ3兆ドルの外貨準備も、実はこうした貧しい中国のなせる技であることを我々は知るべきだ。普通、国が豊かになれば、それに見合いで輸入が増える。輸出主導で経済を拡大した我が日本も、それに見合ってどんどんどん輸入を増やしていく。外貨とは基本的に輸入代金に充てるもので、輸入を上回る外貨をため込んでも、それは使い道のない紙きれで、国民の生活にはあまり役に立たない。ところがチャイナは人民元が値上がりすると経済そのものが可笑しくなると思い込んでいるので必死になって為替介入し米国債を買いまくっている。そのグロテスクなまでのドル買いの成れの果てが3兆ドルもの外貨準備に表れている。これはチャイナ経済の強さの証明では無く、弱さの証明なのだ。
「不動産業はチャイナ経済の基幹産業だ」と言ってのけるチャイナの要人の話もお笑い草だ。既に北京の不動産を全部売ったらアメリカが買えるんだそうだ。これもどこかで聞いた話で、以前、日本を売ったらアメリカが四つ買えるといわれていたっけ。しかしこれもおかしな話で、不動産と言うのはエンドユーザーに売り抜けない限り完結しない商売で、そのエンドユーザーとは末端の庶民なのである。つまり不動産価格をあげすぎると庶民にとって住宅は高根の花となり手が出なくなる。手が出なくなると買い控えが起き、そうなると不動産は庶民でも買える水準に暴落せざるをえない。こういうメカニズムになっているのである。チャイナの不動産需要の6割は転売目的の投資需要だと本書にも書いてある。既に夜になっても全く電気のともらないゴーストタウンがチャイナのあちこちに出来ているという。目先のあぶく銭に追われ、不動産バブルに目を奪われるチャイニーズたちの終わりは近い。既にチャイニーズエコノミストは2012年にチャイナの不動産は半値になると宣言している人もいるそうだ。最近、香港とチャイナの株式が底が抜けたように大暴落しているのも、そのことを先取りしているのかもしれない。