(第4部のレビューから続く)
夏目漱石の「坊ちゃん」から始まったこのシリーズの最後は、やはり夏目漱石である。そして、取り上げられたのは、漱石が伊豆で大喀血し危篤に陥ったいわゆる「修善寺の大患」のである。漱石はこの時、30分死んだそうである。
第5部では、この30分の間に漱石が見た夢(死ぬ直前に自分の一生が走馬灯のように甦るというやつか?)を中心に物語が進んでいく。夢には今まで登場してきた人物が印象深い姿で登場してくる。本当に、シリーズと明治という時代の最後を飾るに相応しい作品である。
‘86年に始まったこのシリーズがここまでくるのに12年かかっている。当然、谷口ジローの絵柄も変化している。連載当時の彼の絵柄は、今までの劇画的な荒々しいものから、繊細な絵柄に変化していく過程にあり、まだ劇画的な気配が残っていたのだが、シリーズが完結する頃には現在の絵柄に落ち着いている(私はどの時期の絵柄も好きである)。
私は、元気な漱石と躍動感溢れる物語である1作目は連載当時の絵柄で書かれ、危篤に陥った漱石が描かれた静謐な作品である5作目が現在の繊細な絵で描かれたことは、結果的に良かったのではないかと思う。
このシリーズは、谷口ジローと関川夏央のどちらか一方が欠けても成立することは考えられない、黄金コンビの集大成に相応しい傑作である。単行本と気軽に読める文庫本の両方が販売されているが、谷口ジローの絵の魅力は単行本で味わうべきだと思う。しかし、文庫本も、高橋源一郎等による解説が素晴らしいので捨てがたい。
(レビュー全5部完結)