夏目漱石が
『坊っちゃん』を着想し、脱稿するまでを描いた物語。
本作では、
『坊っちゃん』の登場人物にはモデルがいた、という設定となっており、
その部分だけでも楽しめます(清が樋口一葉、マドンナが平塚らいてう等々)。
ところで、
『坊っちゃん』という小説は、富国強兵へと突き進む明治日本を先導していく
パワーエリートにはなり得ず、“坊ちゃん”として生きざるを得ない知識人の諦めと悲哀
を描いた寓話と言えます。
しかし本作では、そうした漱石の敗者としての甘美な感傷を
相対化する存在として、ラフカディオ・ハーンを登場させます。
日本に帰化し、東京帝大文科大学の講師を勤めていたハーンは、
漱石が英国留学から帰ったため、その職を追われてしまいます。
自分と同じく、江戸文化と西欧文化の間で引き裂かれ、時代から「無用の人」扱いを
受けたハーンに対し、自らが関知しないところで加害者にさせられていたことを知った
漱石は、果たしてどのような感慨を持ったのでしょうか。