普通の企業人の人生だったら、最後の一幕といえる子会社出向通告から本書は始まる。「最後は本社役員に」と思っていたというが、著者・川淵氏のの左遷が無かったら、日本は未だにサッカー三流国だった可能性も高いわけで、出世しなくて良かったと思うが、本書を読んでいると、日本サッカーを飛躍させた著者の根っこは古河で体得したマネジメント能力なんだなと得心した。
本書には「人事の話は差し」「正直に話す」「前例非踏襲」など長く企業人・組織人をしてきた人間にしか分からないミドルマネージャーの機微がエピソードを交え、よく書かれている。言うのは簡単だが、実に難しい。しかし、ミドルマネージャーもトップマネジメントも長年こなし、国内ではこれ以上ないほどの成功を収めた氏の言葉には説得力がある。そして、氏のイズムの根底には「マネージャーは即断、信じたら誰が言おうが突き進む」という精神があることを強く感じさせる。「独裁者」と叩かれ(この陰口は本人も受け入れているが)ても、私心無くサッカー普及という理念を心に灯し続けたからこそ、これだけ大きなことができたのだ、と知る。
ビジネス啓発コーナーに積んであるような、経済評論家や学者の自己啓発本というのは、自分であったり、せいぜいその周囲の組織、人間をよくする程度の小さな器の本だ。そうした本より、企業人としては夢破れて去った著者の手による本書は、はるかにスケールが大きく有益な本だ、と思う。