ソニー銀行とは対極の金融機関に身を置く者として、また同銀行の一ユーザーとして手に取った次第。
結論から言えば、(1)実際にソニー銀行のサイトを訪問し、既存の金融サービスとの違いを感じてみる、(2)同社の石井社長がホームページ上で発信しているメッセージを読んでみた方が参考になると思う。
本書は、ソニー銀行のサービスの一部(ホームページリニューアル、外貨預金、資産運用ツール等)にスポットライトを当て、担当責任者や石井社長の想いなどをインタビューし、既存銀行との違いを考察したものであるが、そこから見えてくるものは我々が日頃抱いている銀行への不満や疑問と大差ない。
ソニー銀行は企業として全うなこを経営理念に掲げ、それを愚直に遂行していく力があるといえるが、少しうがった見方をすれば、民間消費財メーカーやサービス業では当たり前のように考えてきたことである。すなわち、同社の社員が「顧客にとって本当に必要なことは何か。普通に考えたらどう見えるのか。どうあるべきなのか。それは理想なのか、会社都合なのか。常にそれを考えながら物事を決めていかないといけない。」と述べているようなことである。
それでもソニー銀行の社員が、「銀行なんて行かずに済むならば行きたくない場所。病院と一緒で、行かざるを得ないから行っており、それ以上でもそれ以下でもない。銀行はどこもお客様第一と言ってるけど、中身が全く伴っていない。(中略)しかも勧める商品は、自分が納得して売っているというよりは、ほとんどが本部の指示にもとづくものがほとんど。本当の意味で顧客の資産内容をじっくり見て金融商品を提案している銀行が、果たしてどれくらいあるだろうか。」といったことを理解していることは強みの源泉でもあろう。
いみじくも、ソニー銀行業容が拡大すればするほど、「銀行の常識は世間の非常識」が証明されてしまう可能性がある。
また、石井社長が「生きることは何なのか、いつも考えている。それを忘れるとしっぺ返しがきてバランスが狂う。いつも思っていることは、関わっている人みんなに幸せになってほしいということ。お客はもちろん、社員にもソニー銀行で働いたことが、その人の人生でいい記憶になってほしい。いい人生と生き方のために、自分が役に立てることは何か。」ということが、同社を支える強い組織風土にもつながっているかもしれない。
同じ業界に身を置くものとして感じていることは、依然として「いかにして顧客を捕まえるか、ボリュームを拡大させるか」といったプッシュ型の戦略とそのためのセールストークなどのテクニックを磨くことばかりに力点が置かれていることである。
本来は、(同質的な意味で)供給過剰と言われる金融機関は、「いかにして顧客に選ばれるか」ということに知恵を絞ることが重要なはずだが、これらは驚くほど議論されていない。所詮、競合の後追い、横並びが関の山である。同じことをするなら経営体力の勝負になるのは明らかだが、それをテクニックや人間力、精神論といったもので差別化しようということで、疲弊している現場は少なくない。サービス業として人間力は大切だが、それに頼りすぎるのは諸刃の剣と考える。
ソニー銀行のホームページには、「ソニー銀行と取引するメリット」ということが掲げられているが、このような明確なメッセージを打ち出し、顧客を惹きつけられる金融機関はどの程度あるのだろうか。
設立10年足らずのソニー銀行やSBIネット銀行の預金残高ではすでに1兆円を超え、中堅の地方銀行の規模となっている。既存銀行は「セグメントやチャネルが異なるから我々と関係ない」と切り捨ててしまっていいのだろうか。預金や住宅ローン集めに疲弊している既存銀行を尻目に、驚くほどのスピードで残高を積み上げている事実ときちんと向き合う謙虚さが求められるではないか。
市場が縮小する現在、「頑張り方」を間違えると組織は大きなダメージを受ける。「本当に頑張らなければならないことを、ガンバッて考える」ことが求められている。それは温故知新を大切にしつつも、時代に合ったビジョンやコンセプトを考えることにほかならない。