天皇制を主テーマにした近代政治思想史の学究による、大真面目な「鉄道学」本。ご本人は「専門家ではない」と断ってはいるが、鉄道と日本の社会史との関わりを膨大な史料と具体的な見聞・経験を基に、闊達自在な、それでいて軽佻なところのない筆致で記述。そのうまさは、鉄道に関しても「セミプロ級」で、実際、読み始めると面白くて最後まで止まらなかった。
巻末の宮部みゆきさんの解説も秀逸で、読後感も彼女のおっしゃる通りというほかなく、「鉄道紀行文学の3人」「鉄道に乗る天皇」「西の阪急と東の東急」「都電の消滅と地下鉄」「新宿駅の騒乱」「上尾駅などでのサラリーマンの暴動」など、どこに入り込んでも興味は尽きなかった。ことに、市電(都電)が東京の街中をくまなく網羅していた頃は視覚的に皇居そのほかの風景が日常的に身近だったのに対し、大半の都電の廃線と地下鉄ネットワークの拡充はその風景を見えにくくした、という指摘はなかなかに面白かった。それやこれやで、自信をもって☆五つを呈示する次第。