著者の安本氏は「邪馬台国九州説」の重鎮であるが、本書の前半では先般、国立歴史民族博物館(以下、歴博)が新聞発表した「箸墓の建造年代=卑弥呼の時代」説を科学者の立場から論破し、後半、自論の「邪馬台国東遷説」を簡潔に解説したもの。前半で注意したいのは、安本氏が「畿内説」ではなく、歴博の学術的姿勢を批判している点である。
歴博の「箸墓」の年代測定は、炭素の同位体(C14)の半減期を利用した手法による。著者の論点の要約は以下。
(1) 本測定法は測定対象によって、結果の推定年代にズレが生じる。
(2) 歴博は対象として土器付着物を用いたが、例えば胡桃を用いるとそれより約100年新しい結果が出る。
(3) 他の、例えば「ホケノ山古墳」を例に採ると、胡桃を用いた結果が実年代に近い。
(4) 歴博は土器付着物に拘って、他の測定対象を無視し、自身に都合の良い結果を導いた。しかも、学会発表(他者の吟味を受ける)前に新聞発表した。
(5) 本問題には、国家予算を使用している歴博の体質だけでなく、マスコミの付和雷同・話題喧伝的体質がある。
上記が図表を駆使した豊富なデータに基づき解説されるので説得力がある。後半は自論の「邪馬台国東遷説」の説明だが、私も「大和朝廷の母体は西から来た」と言う線は動かせないと考えているので、基本的には賛成である。ただし、「天照大御神=卑弥呼の伝承」論は、本書の科学的分析とは一線を画すように直感的考察に思われ、更なる研究が必要と思う。学問のあり方と、公の研究機関・マスコミの体質批判として、傾聴すべき論考。