核となる主張に説得力がなく、矛盾も抱えているばかりか、随所におかしな記載が散見される。新たな理論を主張しようとしているクセに、それをわかりやすく説明するための図がほとんどないというのもいただけない。
著者は、「自然選択は進化の結果であって原因ではない」と主張し、自然選択を進化の要因とするネオダーウィニズムを否定している。だが、この著者自身が、結果ではなく原因を説明できていない。
ダーウィニズムは、進化の原因は「遺伝子のランダムな突然変異」であると具体的に説明できているが、本書の著者は、(彼が進化の本質だとする)「形態形成システムの変化」のそもそもの原因を、提示していない。環境により変化すると言うが、なぜ環境が変わると形態形成システムが変わるのか、肝心な点を明確に説明していない。しかも、形態形成システムを次の世代に受け渡す具体的なしくみも何ら言及がなく、進化の本質としての新たな理論を、全く具体的に提示できていない。
そもそも、(変化の結果生まれた)新たな形態形成システムが生き残るか否かは、結局は自然選択で決まるのではないのか。著者の主張が、「自然選択は進化の結果であって原因ではない」という言葉と、整合していない。
また、著者は、「自然選択は、小進化を説明できるが大進化を説明できない」と主張するが、「小進化を繰り返した結果、大きな進化になる」という考えが、なぜダメなのか、説得力のある説明が全然できていない。著者が主張するように「形態形成システムの変化」が進化の主要因であるとしても、結局は大進化は説明できない。「形態形成システムの変化」ではDNAは変わらないのだから、DNA自体が大きく変わるような大進化は、むしろ起こり得ないのではないのか。全く説得力がない。
第三章で、「水中で生きる生物に足が生えたのだから、これは明らかに自然選択ではない」、という言があるが、これが本書の全てであると思う。水中で生きているからといって、生えた足が邪魔にならなければ、淘汰されず生き残るわけで、これは自然選択によるサバイブに他ならない。ダーウィニズムは別に中立説とは矛盾するわけではなく、何か役立つものが現れなければ即「自然選択」ではないとする著者の解釈の狭さが、この本に蔓延する矛盾感の根源であると思う。
たとえば、1つの狭い湖でシクリッドが複数種に進化した実例を、環境隔絶による進化を否定する例として挙げているが、これもおかしい。地理的に同じ湖であってもニッチ(エサや水温や周囲の植生など)が違えば環境隔絶になるのだし、そもそも同種内での小進化に過ぎないのだから、複数が淘汰されず1つの湖で生き残っていたとしてもダーウィニズムの主張とは別に矛盾しない。
ただ、「DNAが生命の設計図であり、DNAさえあれば生物を復元できる」といった間違った考え方をただす記載が、いたるところで強調されている点、発生においてDNAに頼らずに分化がすすむ工程がある点を丁寧に説明している箇所は、生物学の啓蒙書としては評価できると思う。