少なくとも、健常者が何らかのトレーニングをして「脳を鍛える」ことが可能となるような知見は、脳科学からはまだ得られていないということが分かりました。
脳科学の系譜を、デカルトから説き明かしています。そして、似而非脳科学を振り回した本として『脳内革命』『ゲーム脳の恐怖』を挙げた上で、一見科学的に問題がないように見える、認知症の人たちのための「学習療法」についても、実は脳科学的根拠などないのだということが示されています。(学習療法の提唱者については「一人の日本の新進気鋭の脳機能イメージング法の研究者」として名前を伏せて書かれていますが、ちょっと調べれば、「脳トレ」の監修で有名になった川島隆太氏であることは分かりますね。脳トレも、正体を知らないままにうさんくさいなあと思っていましたが…。)
そのことの前提として、脳機能イメージング技術の仕組みと限界についてわかりやすく説明してあり、勉強になりますが、やはり一番重要なのは、脳の機能についてはほんの少し分かっただけで、全体像などはまだ全然分からないということです。ましてや、それを元にした応用などできるはずがない。そして、測定技術を工夫して見えてくるものを短絡的に判断してはいけないのだ、という教訓も得られます。こうやって似而非科学が生まれるという面もあるのですね。
最後に、脳機能イメージング技術がADHDやアスペルガーなどの発達障害に光を当てる可能性について書かれていますが、これは否定的なことを中心に書いたことへのフォローという感じが強いです。帯ではその辺が強調されていますが、本書の主眼はそこにはないですね。
ついでながら、マスコミ・大衆出版界には、他にも数名、「脳科学者」を名乗る人が露出していますが、本書には名前すら出てきません。問題にしている部分が重ならないからなのかも知れませんが、名前を伏せてでさえ、引き合いに出す価値がないということなのだろうか、と邪推してしまいます。