日本人は独創性に乏しいのだろうか? 答えは「ノー」であり「イエス」だ。
本書に登場する流出頭脳たちが語る日本の問題点は、研究業績が大物研究者を中心に行われ、業績そのものを評価する力の弱さ・大学を中心とした研究現場人事の密室主義・硬直した予算主義――の3点だ。
京都大学の柳沢正史講師は、ネイチャーに発表した1本の論文が縁でテキサス大学准教授のポストを得る。無名の研究者がなかなか評価され難い日本と違い、「良い論文を書いた若者がいるらしいから、呼んでみよう」と考える米国の懐の深さが異脳たちをひきつける1番の理由といえる。
柳沢教授はまた、対照的な経験をする。東京大学が生理学の教授に招請したのだ。しかし打診を受けた当人が迷ううちに「就任が決まったから来てくれ」という連絡が届く。審査のプロセスは本人に一切知らされることなくだ。この一件に不信感を募らせた教授は、東大教授の席を蹴ってしまう。
予算獲得の不備で高価な装置を購入できないことも珍しくない。海外流出組を公募して、従来の硬直した国立大学の人事慣行に一石を投じた筑波大学。カナダから応募して教授の辞令を受け取ったたんぱく質解析の伊倉光彦教授が、当日辞令とともに受け取った言葉が、「実は予算の都合で、申し訳ないがNMRの購入を1年待ってほしい」。ほどなく伊倉教授はカナダに“帰国”してしまう。
知力と度胸で世界最先端の業績を上げ続ける流出頭脳組と官僚主義に侵食された悲喜劇に翻弄される国内滞留頭脳組の対比が日本落日の真の理由を語っている、優れて今日的な日本人論でもある。
(日経バイオビジネス 2002/04/01 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
「異脳」流出 独創性を殺す日本というシステム
経済ジャーナリストである著者が、「日本人は独創性に乏しい」という風評の真偽を確かめるべく調べていくと、世界に誇る日本人研究者の多くが「海外で暮らし、日本に帰りたがらない」現実を思い知らされたという。
本書は昨年、「週刊ダイヤモンド」誌に連載された「知られざる日本の<異脳>たち」を加筆修正したもの。7人の研究者へのインタビューから、その突出した才が生み出した成果を紹介するとともに、窮屈な日本社会への思い、憤りを引き出した。
今、ノーベル賞に最も近いと言われる日本人が「青色発光ダイオード」の実用化をなし遂げた中村修二氏。米国に住み、カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授として研究を続けている。研究者が縛られる日本の仕組みは共産主義並みだと語る。
また、「ナノテクノロジー(超微細技術)」発展のカギとなる「カーボンナノチューブ」を世界で初めて発見したのは飯島澄男氏。米国での研究期間を経て、現在はNEC研究開発グループ特別主席研究員として日本で働く。著者は「(飯島氏は)欧米と比べて研究を後押しする『国家戦略』の欠如に不安を感じているようだ」と推察する。
また、「暗記課目が苦手」など、“異脳”たちの意外な共通点も明かされる。
(日経ビジネス 2002/02/11 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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23 人中、22人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
海外で突出した研究活動を行う日本人研究者をインタビュー,
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レビュー対象商品: 「異脳」流出―独創性を殺す日本というシステム (単行本)
日本を離れて海外(主にアメリカ)で突出した研究活動を行う日本人研究者をインタビューし、彼らのキャリアを紹介しながら、研究環境を含めたシステムの違いを浮き彫りにし、日本における科学技術開発の現場への警鐘を鳴らそうとする書。日本人には独創性がないのではなく、それを摘み取ってしまう制度、文化、慣習、環境などが数多く存在していることを非常に具体的に目に見える形で示している点で有益だと思う。そして、各研究者へのインタビューを終えた上で、著者は最も大きな問題点として、(1)画一的な教育制度と大学の上下関係、(2)相互評価(相互監視)の機能しない「もたれ合い」、(3)官僚の縦割り行政と単年度予算弊害、の3つを挙げている。こうした問題点の指摘は決して目新しいものではないものの!、これらを実際の研究者の経験と生の声を通すことで説得力のある内容となっている。
18 人中、17人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
日本と現代の科学技術文明との関係の研究を促す本,
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レビュー対象商品: 「異脳」流出―独創性を殺す日本というシステム (単行本)
ここに登場する7人の日本人(アメリカに帰化した人も居るが)は、心の底から日本を嫌っているのではありません.母国に対する愛着では決して人後に落ちないのに、自分の生涯を捧げて悔いない学問のためにはアメリカかカナダに住まざるを得ないのです.著者は、本人や周囲の人たちにインタービューし、関連する資料を収集してこの事を確かめ、わかりやすく記述しました.もちろん、この本を読むに当たっては、そこに書かれていない事にも注意が必要です.たとえば、ノーベル賞級の研究をする人たちの大半が流出したわけではないという事実があります.しかしこの本を読んでから改めて日本人ノーベル賞(自然科学系)受賞者に関する報道を見ると、彼らが「異脳」の人のように見えるケースがしばしば見られるのに気がつきます.しかも、その人たちに対する国内での顕彰がノーベル賞の後を追うように行なわれることが珍しくありません.こういうことを考えると、著者が「異脳」流出を問題として取り挙げたことには優れた見識があると言うべきです. これらの事を見るにつけ、20世紀にルース・ベネディクトが直面した課題が日本人と科学技術文明との関係は今後どうなるのかという新たな装いを伴ってわれわれに迫っていることを感じます.『「異脳」流出』は、人文・社会系の学者にもっと真剣に日本を研究せよと促しています.
9 人中、9人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
研究者を志す者としては日本の研究環境に考えさせられます,
By jinchoku (つくば市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 「異脳」流出―独創性を殺す日本というシステム (単行本)
日本の研究環境では実を結ばず、渡米して大きな結実を見た日本人科学者たちの物語とそこから透けて見える日本の研究環境の抱える問題を浮き彫りにした点が本書の功績でしょう。農業経済の分野で修士号を取得して一度就職したものの研究者への思い止まず、おまけに専門を変えて博士課程を目指す私にとっては非常に興味深く、進路の判断そのものを考えさせる一冊です。本書では、青色発光ダイオードの発明者・カルフォルニア大学サンタバーバラ校教授(1)中村修二氏、フラーレンの第一発見者の地位は逃したもののカーボンナノチューブの発見者となったNEC基礎研究所主任研究員(2)飯島澄男氏、バイオインフォマティクスの旗手でトロント大学教授の(3)伊倉光彦氏、エンドリセリンやオレキシン研究の第一人者でテキサス大学サウスウエスタン・メディカルセンター教授(4)柳沢正史氏、独自のクローン技術で高名なハワイ大学医学部教授(5)柳町隆造氏、大気の1次元モデル、大気・海洋結合モデル、大気大循環モデルといった気象学では屈指の重要概念を提示した前地球フロンティア研究システム領域長(6)真鍋淑郎氏、ノーベル経済学賞に最も近づいた日本人と呼ばれその経済理論の精緻さは個人消費の分析理論に裏づけを与えたスタンフォード大学教授(7)雨宮健氏、というそうそうたる7人が登場します。いずれもが各分野の天才ですが、日本の研究システムには馴染めなかったという共通点があります。それにしても真鍋氏の「同じ人間がアメリカでできて、なぜ日本ではできないんでしょう(P.213)」という言葉はズシリと心に響きます。 無論、アメリカの学術研究は激しい競争が繰り広げられる実力社会です。競争に敗れてアメリカを去らざるを得なかった人たちも描ければ一層深い内容になったのではないでしょうか。
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