就職、受験対策などに発する、理不尽な早い時期での文理分けによる弊害などを中心に、日本社会にはびこる、理系を軽視する傾向に警鐘を鳴らす、読みごたえのある本である。きちんと関係者などを取材し、データを用いて理論を裏付けているので、クリアな著者の主張には納得させられることが多い。余剰ポスドク問題など、近視眼的な科学政策の結果などにも目を向け、理系(というか近視眼的な学術偏重主義)特有の問題をもとりあげている。
技術立国としての日本の将来における理系教育の重要さを語るが、内容的には決して、文系を軽視するような論調では無いし、理系の優越を主張しているわけでもない。個人的には、文系の方により多く読んでほしい気がする。理系のなかで生きてきた人間としては、就職時、理系産業やアカデミアに残らない道を選んだ人々の経験談が、ためになった。
結局、問題の本質は、日本社会(教育機関や企業など)の柔軟性の無さにあるような気がしてならない。日本社会は上から下まで、あまりに理路整然と、「進むべき道」が整っていて、一度でも敷かれた道を外れると、ある意味で「普通」の社会へ再び入り込むのが、難しくなってしまう。これは、ニート問題などとも、切り離せないのではなかろうか。文理分けは、実質的に進路分けなので、若い子供達は分けられた時点で、「進むべき道」を与えられてしまう。本書でも語られるが、進路変更には、非常な困難が伴う。
日本でも、戦後長らく成功し続けた画一社会が崩壊してしまったので、エリートコースを歩んできた幸運な人材だけでなく、すこし外れた道を歩んだ人間をも、有効に活用できるような社会への変革が、国際的な競争力を維持するためには絶対に必要である。豊かになった日本は、人それぞれ違う豊かな生き方を尊重できるような、包容力のある社会を目指す必要があるのではないか、と感じた。