「ε-δ論法」を大学教養課程の数学解説書は、「わかるかなー、受験勉強ばっかりやってきた君たちの頭ではちょっと無理かもね」という調子で扱ってきました。
高校の受験参考書になると、「理解出来る余裕のある人はそのさわりだけ紹介します、理解できなくても心配ありません」という調子で、数学を根底から理解しようとする真面目な高校生をスポイルしてきたように思います。その結果、dx/dyは分数なのか演算を表現しているかの疑問を殺して、大学受験生は黙々と演習に励む結果を招いていたのではないでしょうか。
ところが、本書は「ε-δ論法」は解析学が立脚する位相空間論の理解の支点として、無限や連続性の思考が端的に表現されていると捉える点において、類書と全く異なっています。
大学受験勉強でお世話になった「平均値の定理」から始り、「ロルの定理」を通じ「ε-δ論法」を理解の支点として、位相空間理論への道筋をつけていく筆者の構成のうまさは長年大学教養課程の数学教育に携ってこられた豊富な経験からのフィードバックであると理解しました。
本書の最後にはブックガイドがついており、さらに勉強を深めたい読者にも配慮が行届いた構成です。理系の高校3年生や予備校生、「一般均衡解の存在証明に位相空間理論の理解が必要になる経済学部生」が夏休みに読む本として、お奨めします。