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この本では、リットン報告書の内容そのものについては、最後の章で4頁をさいてその要約が紹介されているだけである。大半は、英仏独伊米の5カ国の識者からなる調査団が見聞したことどもを、ドイツの国会議員である団員シュネーの目でまとめた見聞記・ドキュメンタリーである。溥儀の生い立ちや荒木陸相の人柄、各国要人との会見の様子などは勿論、京都の舞妓やハルビンの盗賊、農林業の姿、中国各地をその年に襲った洪水の跡まで広範に目を向けている。
シュネーは、随所で日本の立場に理解を示していると思わせるが、中国の立場にも同様に(より多く?)理解を示している。しかし、中立を旨とすることを国連から科せられていたためか、一歩引いて客観的にものごとを見ようとする姿勢もうかがわれ、例えば、匪賊と呼ぶものは、実は満洲国軍からパルチザンまで幅広いスペクトルを有するものであると実例を挙げて分析してみせる。興味深い指摘もあって、例えば、孔子廟において孔子が手厚く祀られている様を見て「そもそも西欧文化の国々で、このように哲人や学者が尊敬されたことがあろうか?」などと記し、中国や朝鮮、日本が西洋にない良いところを多くもっていると興味を示している。
リットン報告の内容とその背景を知る資料であるだけでなく東西比較文化論としての「満州国」論でもある。
まず、満州地方の人々が軍閥の圧制、匪賊の跳梁跋扈にずっと前から悩まされていたことは英米国人ら外国人や中国人自身の証言として言及されている。
馬賊の首領から身を起こした張作霖と息子学良の貴族のような暮らしぶり、またシュネー氏の言うように’24年には「満州で張作霖反対運動」が始まっていたことからしても、彼等が地元民を重税によって搾取していたという証言が裏づけされているように思われる。
日本人も含めた満州地域の住民は、本当に匪賊等の略奪、器物損壊、誘拐、強盗、殺人といった犯罪に苦しめられていた。
著者は、満州事変後の満州国内では中国本国に比べて匪賊の被害が圧倒的に少なくなっているというし、またソ連から逃れてきたロシア人ドイツ人難民が満州では貧しくとも溌剌とした暮らしをしていることなどをとっても、日本の行動が満州に秩序をもたらし、地元住民の生活を向上させたのは間違いない。
一方満州族の間に清国復興運動、即ち復辟運動が本当に有ったことは、溥儀の家庭教師ジョンストンが言うように明白な事実であり、「リットン調査団にはそのことが見えなかっただけ」であった。少なくともリットン調査団は「復辟運動がなかったことを証明」してなどいない。
国際連盟(欧米列強)としては日本の「満州での特別権益」を認めたくはないが、満州の共産主義に対する橋頭堡としての役割は認めざるを得なかった。そこで表向きは反対の立場をとって中ソを牽制しながら、日本には「望みどおり」満州経営の経済負担をさせて自らは懐を痛めず、結果的に欧米列強が得を取る。それがリットン報告書の正しい読み方だ、と思う。
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