超一流のプロ棋士でも、必ずしも詰将棋が得意とは限らない。解図はともかく創作となれば、宗看・看寿の双璧を前に、当代名人の献上百番図式という倣いも歴史の彼方に埋もれつつあった。
現役バリバリのトーナメントプレイヤーであり、当時とは比較にならないほど多くの時間と労力をファンサービス等に費やさねばならない宿命に身を置きながら、十七世名人・谷川浩司氏が、歴代の伝統に比肩し得る素晴らしい図式集を上梓した。
多くは、専門誌『詰将棋パラダイス』などに、プロ棋士とか名人とかの地位肩書身分は一切関係なく、純粋に詰将棋を愛するいちファンとの立ち位置で発表された作品だ。
各題に寄せられたコメントも、図面を多く使った変化手順の詳細解説はもちろん、作図当時の思い出話苦心談も懐かしく語られている。『詰パラ』の結果稿に寄せられた詰キストたちの解後感想も多く盛り込まれており、歴史に残る献上図式の雰囲気を意識しつつも、新時代ならではの作品集が形作られていると言えよう。
もとより、評者のような初心レベルの詰将棋ファンには到底歯が立たない、長手数の構想作や趣向作が大半を占める。盤に並べて駒を動かしつつ、名人の“献上図式”百番をじっくりと味わえる幸せを噛みしめたい。
歴史的にも大きな意義がある永世名人の文字通り渾身の作品集ながら、ソフトカバーの廉価版“も”出版されたのは喜ばしい。
“も”と表現した理由は、じつは評者は事前予約で、函入りハードカバー金文字箔押しの『愛蔵版』を購入しており、こうした廉価版が出るとは迂闊にも予期していなかったから。
なので、その『愛蔵版』についてひとこと言及すれば、本書カバーを彩る谷川氏の雄姿を、口絵グラビアの形で入れるサービスくらいはぜひにもしてほしかったなぁ、と思う。・・・いや、予約特典でサイン入りブロマイドが貰えたし、それはそれですごく嬉しいことだったんですケド、ネ(汗)。