暮しの手帖社社主、大橋鎭子さんの子供時代のエピソードから、花森安治さんとの出会い、「暮しの手帖」の創刊、昭和53年に花森さんが亡くなるまでの出来事が、自伝的に綴られている。
戦後まもなく、娯楽どころか衣食住も十分とはいえない時代に、新しい雑誌を生み出した人びとの熱みたいなものが伝わってきて、ページをめくるごとに胸が高鳴る。
本をつくるよろこび。みんなでひとつの仕事に没頭する楽しさ。譲れないものと、変わることをおそれぬ勇気。それらがぎっしり詰め込まれた、さながら「暮しの手帖」一家の冒険譚といったおもむき。
テレビが普及していない、インターネットもない時代に、雑誌をつくることは、どんなにか新しく楽しかったことだろう。
鎭子さん(と敬愛をこめて呼ばせていただく)が川端康成に原稿を依頼するくだりなど、わくわくして鼻血が出そうになる。
菊池寛賞の副賞として贈られたアメリカへの旅も然り。今で言えば、宇宙旅行に行くくらいの驚きと新鮮さに満ちていただろうな。
何より魅力的なのは、さまざまなエピソードから伝わる鎭子さんのお人柄。
繊細にして大胆、物怖じせずに信じた道をまっすぐ歩いてゆくそのきっぷのよさに、読みながらため息が出る。
三十年間一緒に仕事をしてきた花森安治さんへの敬愛も、言葉の端々ににじむ。
花森氏は、本当に魅力的な編集者だったんだな。
鎭子さんは「また近いうちにお会いしたく存じます」とこの本を締めくくっているから、鎭子さんと「暮しの手帖」の物語にはどうやら続きがあるみたい。
松浦弥太郎さんを編集長にスカウトするエピソードも、鎭子さんの文章でぜひ読んでみたい。
歴代「暮しの手帖」記事の抜粋や、先日亡くなったシャンソン歌手の石井好子さんが鎭子さんのことを綴った文章(名文!)なども収められていて、「暮しの手帖」ファンにはたまらない一冊です。