映画"戦場のピアニスト"の主人公・シュピルマンがナチス将校ホーゼンフェルトの前で実際に弾いたとされるノクターン嬰ハ短調に始まって、映画のクライマックスでのバラードト短調、エンディングでの希望に満ちた華麗なる大ポロネーズまで、ショパンの作品中でもメランコリックな性格の楽曲を中心に構成されている。そして本来の意味での唯一のサントラであるキラールによる1曲をはさんで、最後にシュピルマン本人の録音によるショパンのマズルカで締めくくられる。実際に劇中で使われているのは4曲だけだから、「サウンドトラック」というよりは「イメージアルバム」といった趣が強い。
だがこれは、一枚の「ショパン・アルバム」としても十分に楽しめる。ショパンの9曲を演奏するのはポーランドのピアニスト、オレイニチャク。ナショナル・エディションの楽譜に基づく録音でもメイン奏者として貢献しているが、本CDでの演奏も見事だ。ショパンの作品の中にある悲劇的ロマンチシズムを十分なデリカシーをもって見事に描き出していて、劇中で使われていない曲にまで映画のイメージがかぶさってくる。ショパンに対するセンチメンタルで女々しいかのような浅薄なイメージをこの1枚で塗り変えるに十分な、渾身の名演だ。
最後におかれた、シュピルマン本人によるマズルカがまたいい。悲劇の主人公が実際に奏でる音が映画のイメージと共鳴して、それが単なるフィクションではなかったことを思い知らされる。そこに描かれたポーランドの悲劇、底に流れるのは、やはりポーランドの魂を持ったショパンの悲哀そのもの。映画も演奏も、まさにポーランドの魂が時代を超えて共鳴した結果なのだ。