1999年に出版された本書を最近はじめて読んだが、まったくもって「新しい」印象をうけた。しかもそれは、「古典は常に新しい」の「新しさ」に近いように思われた。最新の(現在はもっと進んでいるのかな?)脳科学や認知科学の知見を縦横無尽に駆使しつつ、しかし言われていることの中心にあるのは、おそらく普遍的な思想といってそう遠くないものである。
「色」とは、「ものに帰属される性質」ではなく「関係性の質」だ、と様々な要素がからみあった「場」として知覚される「色」の実像を示す。ヒトは意味の「真空状態」を嫌い、だからその認識はつねに秩序や因果を探し求めるという事実を、「直感的判断の錯誤」の根本的な原因として、再確認する。「記憶」とは、脳内で独占されているものでも、さりとて個の身体に閉鎖しているものでもなくて、周囲の環境をはじめあらゆるものに「もたれかかる」ことそのものである。
こうした「新しい」見方は、よくよく考えてみれば「人間の生はすべて、他のものとのつながりのなかにある」とか、「人間は意味なしには生きられない」とか、古今東西の思想やもっといえば宗教がよく語ってきたところである。だから本書は、実に「古典的」な雰囲気をかもし出しているのだ。もちろん、それが徹底して「科学」の言葉と論理で説きあかされているから、他では得難い感動と圧倒的な魅力がある。
ただ、そういう読み方を超えて非常におもしろかったのが、脳の一部(扁桃核)を切除したサルは、本人(?)が狂うのではなく彼のまわりの他のサルの方がパニック状態に陥る、という実験事例の紹介である。「心」が存在する場所は「他人」なのではないか、という著者の逆説的な発想を、裏付けてくれるかのような、激しい好奇心のわいてくるいい話であった。