「最年少で」とか、「28歳で」といったことは、実際にレストランに足を運ぶ客の立場からすればどうでもいいことだ。彼の料理が、支払う対価に見合う素晴らしいものであり、かつサービスを含めた彼の店での経験が、客にとって満足できるものであるならば、人はまた足を運ぶし、そのことによって料理人の評価は自ずと定着する。
そして、料理人として成功するということは、若くして一時的に世間の注目の的になることではなくて、自分の店を10年、20年と続けていけるかどうかだと、過去に華々しく脚光を浴びては消えて行った、実に多くの料理人たちを見ていて思う。
「牛肉のミルフイユ わさび風味」が彼のスペシャリテのようだが、はっきり言えば、それだけでこの人の料理人としての質を、一般の人たちも理解できると思う。彼が使っているのはエスビーの粉ワサビであり、これは「わさび」と銘打っているものの、原料はホースラディッシュを粉末に加工したもので、それに着色料を加えて「わさびのような」見た目にしたものに過ぎない。そして、牛肉とホースラディシュを合わせることは、全くもってユニークなことではなく、そこに個性だとか独創性は存在しない。問題にしたいのは、料理人として、粉ワサビのようなauthenticでないものを平気で使用できる、この人の品性についてである。
特別な経験を求めてレストランに足を運び、わざわざ粉わさびを口に入れたいと思う客が存在していることは、本当に驚きだし、決して安価ではない料金を支払ってくれる大切な客に、粉わさびを食させる星付き料理人が存在するいるということに、より大きな驚きを感じざるを得ない。