精神科医であり人間文化学部教授である香山リカ氏の著書。現代人の悩みについて、具体的な項目を挙げて、著者自身の考えを述べている。平易な言葉で情報量も少ないため、誰でも数時間で読破可能。カテゴリーとしては教養本ではなく、エッセイ集と考えるべき内容。
結論から言うと、本書に書かれている項目に該当する悩みがある読者が購入しても、何の解決にもならないと思う。前書きにはもっともらしい背景が述べられているので、同氏の他の著書よりまともかと思って読み進めたが、そうではなかった。まず、記載のほとんどは著者が主観的に同意する伝聞や憶測であり、わずかに持ち出される調査結果もウェブサイトなどから容易に得られる程度の内容をそのまま記載されているだけである。せめて読者の代わりにデータを統計的に解釈して説明すべきだが、時系列を追わなければ解釈できないデータを一時点だけで述べたり、アンケート調査の変化を背景因子の分析を無視して『嫌な時代になった』と解釈しているふしが多々ある。項目ごとの締めくくりとして『○○の時代は、再び訪れるのだろうか。』と著者自身が悩んでしまっていては、解決を期待して購入する読者に肩すかしを食わせているだけである。また、医師でありながら現代の医療を理解していないと思われる記載も多い。高度な医療体制がなければ『ふつうのインフルエンザ』や『ふつうの胃癌』はまともな治療ができないと思っているらしいが、地域格差がないような治療法でなければ標準治療として普及しないはずである。最終的な解決策は、精神科医として述べるべきだと思うが、『ひとのために何ができるかを考えましょう』では根本的な解決どころか、単なる問題のすり替えにすぎない。
同氏の著作を何冊か読んだが、どれもツッコミどころ満載で、相当に注意して読まなければならない。一見すると読みやすく、的を射ている解説も多々あるが、ウェブサイトで得られるような内容の寄せ集めでは、お金を払う読者の気持ちを理解しているとは言い難い。また、問題の本質を直視せずに解決した気にさせるのでは、著者自身が否定的に考えるスピリチュアルカウンセリングと何らかわりない。IT化によって無責任な情報が氾濫していることが懸念されているなかで、本書のような内容であればウェブサイトの情報を批判できない。文章に悪意は全く感じられないので、悪書と言うよりは著者の論客としてのレベルが低いだけのように思うが、それがかえって社会に浸透する悪影響も懸念する。わかったつもりになって読者が気持ちよくなる書が氾濫すると、国民の知性は低下すると思う。以上より厳しいかもしれないが、星2つまでの評価。