個個の史実には冷静沈着に向き合い、その真偽はもちろん、時系列や因果の正確さは、とくに厳しく精査するのが、史家のみならず、文筆家・作家の本分です。
その点、著者山中 恒氏の史実に対する真摯で厳粛な姿勢には、尊敬の念を抱きました。
読者によっては確かに「重箱の隅をつつく」ような内容に感じるかもしれませんが、戦時体制の現実を体験したはずの人、つまり当時の神戸二中の「少年H」(=妹尾 肇氏、現在の妹尾 河童氏)による著作『少年H』は、作者自身の鮮烈な記憶を土台にしてはいるのでしょうが、山中氏の表現を借りれば、「年表と新聞の縮刷版をふくらませて作り上げたような作品」という指摘も、至極妥当な判断だとわたしは思います。
とくに山中氏が断っているとおり、―『少年H』の方法論に基づく間違いと史実誤認および歪曲について論じている(11p)―のであって、同書に対する全面的否定ではないことを明言していますが、何よりも史実に対する妹尾氏の粗雑な扱いは、この本を読み進めば大変よくわかります。
それは講談社が『少年H』の単行本を文庫化した際に敢行した、何箇所もの訂正や変更や削除の部分を、この本の中でひとつひとつ丁寧に対比参照できるよう取り上げているからです。
なお、この本で取り上げられている戦時中の史実の掘り起こしには、素晴らしいものが幾つもあります。
とくに「事変」と「戦争」の違い、「日の丸(国旗)」の由来、「国体(国體)」などの解説記事は、国家総力戦を余儀なくされた特異な時代を理解し、現在および未来に生かすための必読の内容だと思います。