本書の目的は単純明快。タイトルにあるとおり司馬遼太郎の『坂の上の雲』の記述を(部分的に)検証し、筆者がなぜ日本がロシアに勝利できたと考えるかを述べている。
では、筆者の検証と批判はあたっているかどうか。本書の記述は非常に奇妙なことに、表面的には司馬=黛(治夫、『海軍砲戦史談』『艦砲射撃の歴史』の著者)を批判しているようで、実は技術的な点については黛の著作をしばしば参照する。両者を比べて読むと自説に都合のいい部分を切り貼りし、さらに小説家宜しく脚色を加えているのが分かるだろう。これは、参考文献として上げている他の書籍についても共通する(全て、とは言わないが)。また批判対象とする『坂の上の雲』の記述も、批判しやすいように主張をねじ曲げてから批判している傾向がある。
また史料という点からも、野村実らが参照している『極秘日露海戦史』など今は簡単に利用できる基本史料すら参照していないため、事実誤認が非常に多い。たとえば、連係機雷について『極秘日露海戦史』を無視して記述しているし、「斉射」を含め砲術に関しての見解は黛の実証的な研究の前にかすんでしまう(黛は、利用史料の限界を自覚しており正直である。「斉射」の発展については黛を第一に参照すべし)。
評者は、『坂の上の雲』の叙述が全て正しいとも思わないし、所詮は小説だと考えている。歴史研究としては、まったく別の描き方があり得る。しかし本書は「ミイラ取りがミイラになる」の好例で、小説を批判しようとして架空戦記を書いてしまった。ネタとして読めば、これほどツッコミどころの多い本も少ない。