本書は北朝鮮による拉致被害者家族連絡会と北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会が、2005〜06年の国際会議や国民集会での発言(拉致被害者とその家族、脱北者、各国政治家など)をまとめて、安倍政権期の2007年に刊行した本である。第一に、証言の突き合わせによれば、北朝鮮による拉致被害者は日韓のほか、タイ、中国(マカオ)、ルーマニア、レバノン、ヨルダン、マレーシア、シンガポール、フランス、イタリア、オランダの最低十二カ国にいると見られ、一部は身元が判明した(84頁。ただし断定できない段階のものもある)。第二に、拉致は1978年頃に集中して行われたが、安明進証言によれば、金正日が対南工作部門掌握のために工作員現地人化方針を掲げ、拉致を命じたという。第三に、ジェンキンス証言によれば、レバノンの被害者は大使の縁者であったために解放された。第四に、同証言によれば、北朝鮮は混血児を工作員にするために拉致を行ったらしい。第五に、タイの大学教員によれば、タイでは出稼ぎや人権侵害による行方不明者が多く、拉致があまり認識されていない。第六に、本書の横田滋発言はその冷静さの点で、早紀江発言は拉致発覚までの苦悩が分かる点において重要である。第七に、本書で提唱される対策のうち、脱北者支援、金融制裁とセットの食糧・医薬品支援、北朝鮮政策での国際協力といった提言は良しとしても、六者協議の罵倒、中国共産党の敵視、金正日体制崩壊による問題の一括解決、それを想定した拉致被害者救出のシミュレーションなどの提言は適切だろうか。拉致被害者の所在が未だ不明であり(149頁)、しかも彼らには必ず監視がつく以上、むやみな体制転覆活動はかえって彼らの生命を危険にさらすだけだし、敵の拡大は本質に斬り込むというより、解決のハードルを上げていないか。