一読して改めて思うのは、冤罪を感じ取る朝日新聞鹿児島総局の梶山天総局長の嗅覚の良さである。おかしいと思い、若い記者たちを鼓舞・指導し、しかも管理職の自らもプレーヤーとしてニュースソースとなる警察の内部関係者を発掘してくる。大手メディアにこういうプレイングマネジャー的な管理職は絶無に近い。ジャーナリスト本来のありように忠実な梶山氏のような存在は奇跡的に珍しく、それだけ貴重だ。これだけの有為な人材をもつ朝日新聞社の人材の豊富さに感服した。鹿児島総局の若い記者たちも、これだけの名総局長のもとで働けたのは幸福だったろう。
ただし、鹿児島総局を舞台にした記者たちのストーリーのため、志布志事件全体の構図は分かりにくい。なぜこうした冤罪事件がおきたのかその肝心のことは本書だけでは分からない。起訴された浜田警部補以外の志布志署長や検事ら冤罪を生み出した責任者たちの名前は匿名となっているが、何も匿名にする必要もないだろう。彼らの実名を知りたかった。