まったく異色のロシア本の登場である。おどろおどろしいKGB陰謀説でも、じめじめしたロシア国内の権力闘争史でも、退屈な日露北方領土交渉史でもない。本書はプーチン・ロシアの国家戦略の全体像を、その地政戦略を精緻に分析することによって見事に描いた力作である。
対テロを軸にアメリカとの戦略的関係を構築し、エネルギーを軸にドイツと戦略的関係を構築する、という二つの柱に沿って、大国ロシア復活のための確かな国家戦略を推し進めていったプーチン。しかし米国のネオコン派は、「NATOの東方拡大」と「イラク戦争と中東民主化推進」という二つの柱からなる地政戦略を持ってプーチン・ロシアの前に立ちはだかり、「米ユーラシア地政戦略の方向性をめぐって、ロシアとネオコン派の地政戦略が真正面から対峙していた」という分析は、他書では決して知る事のできない本書オリジナルの「インテリジェンス」と言えよう。
本書で展開される「一定の仮説に基づいて公開情報を丹念に分析し、膨大な情報の洪水の中から高度なインテリジェンスを導き出す」手法は、国際情勢を研究するすべての学生にとって格好のテキストとなろう。是非一読して欲しい一冊である。