プロフィールにもある通り、著者は、第二弁護士会会長、日弁連副会長を経て、現在は大宮法科大学院の教授を務めている弁護士である。「日経ビジネス」の「企業が選ぶ弁護士ランキング」の一位にも選ばれている。
写真などを拝見する限り、著者は強面のタフネゴシエーター(ハードネゴシエーター)のイメージだが(失礼)、本書を読んでイメージが一新された。
本書が説くのは、目の前の交渉に勝つための「術」やテクニックではなく、(お説教くさくない)人生論である。
言うなれば(本書では使われていない表現だが)「スマートネゴシエーター」である(もちろん、ハードな手法を全く使わないという意味ではない)。
ホリエモンや村上世彰などがハード・ネゴシエーターの例として挙げられているが、自分の主張だけを押し通して目先の交渉に「勝った」と慢心していると、長期的には「負け」だったことが分かったり、「負けた」と思っていても、後から見れば「勝ち」だったことがあったりするのだと説く。
著者が指摘する通り、まさに「禍福は糾える縄の如し」である。
交渉に「勝つ」「負ける」とは何なのか?
そもそも、何のために交渉するのか?
以上を忘れず、大局を見失わずに交渉に臨むことが肝要なのだろうが、著者のようにある種、達観したような人生観・人間観がないと難しいのかもしれない。
そういう意味で、交渉力は最終的には人間力である。
あくまで個人的にだが、人生を大きな流れの中で観るという姿勢は、バートランド・ラッセルの『幸福論』に近い読後感を味わった。