この数年来、農業政策のあるべき姿を一貫して明解に指し示し続けている著者の回顧的な農業政策論。税金を出して減反させて高米価を維持し、770%の関税を輸入米にかける。国民に何重もの負担を強いている米政策について、著者は本書でも繰り返し「減反廃止、主業農家への補助金直接支払い、関税値下げ&MA廃止」で多くの懸案を解決できることを訴えている。また、農協の意をくんだ族議員に振り回されるだけになった農水省について、国民利益ではなく、兼業農家、農協の視点しかない体質を本書で改めて指摘している。
本書を読むと、「三つの『白』を経験すると出世する」といったかつての農水の組織原理や、国士的農水官僚の存在、山中貞則、松岡利勝ら、族議員の権化のように見えた政治家の農政向上へかける思いがはっきり見える。著者の体験したガット交渉、日米コメ交渉の内幕も面白い。また、柳田国男から農地改革に至るまで、小作制度を中心とした農業政策小史も書かれている。
組合ヤミ専従、MA米不正など、この10年来の農水省の体たらくを見るにつけ、著者の先見の明は明らかだ。確かに、組織の意見と異なる著者を生かし切れず、民主党の政策を批判をした次官が2ヶ月後にわびを入れるような農水省は本当にへたれ組織だと思う。だが、本書を読んでいると、著者も「自分はこんなにできた」という反面、在任中首尾良くいかなかった案件には、「私には権限がなかった」「意欲はあったのに排除された」となる。自分も組織の末端にいて、気持ちは分かる。だが、局次長まで務めたのに、農水省幹部は経済知識のない無能集団だ、という記述を繰り返し見ると、農水省の同僚が著者に「評論家」と呼び、組織から排除されたというのも、仕方なかったのかなという気もする。
著者の自負はともかく、言っていることは全く筋が通っているし、農政の過去と未来を俯瞰できる良い本である。